或るディベーターの世界大会回顧録

こんにちは、広報の田中です。

先日のみつしさんによる熱いタイテックカップのブログに続き、今回は皆さんお待ちかねのオランダで開催されたワールズ(Dutch World University Debate Championships) の感想文を四年生の中山詩文さんに書いていただきました !!

ディベーターなら誰もがきっと憧れるワールズという舞台。現役中何度も国際大会に出向き、健闘し、経験を積んできた詩文さんだからこそ考えることを聞きたいと思い、卒業を機に、改めてその心境を語っていただきました。大学生活でディベートを極めてきた人が世界大会で何を感じ、何を得たか…


こんにちは。法学部法律学科四年でKDS16期の中山詩文です。年末年始に開催された世界大会に参加してきたので、それを中心に書こうかと思います。稚拙な長文ですが気長に付き合って頂けると嬉しいです。

 

・世界大会参加への経緯と結果、思うところ

オランダはハーグで開催された世界大会(WUDC2017/ Dutch Worlds)に、学生現役最後の大会として参加してきました。長年のチームメイトの干場健太郎と参加するつもりでいたものの、交換留学ゆえ彼の参加が厳しくなったこともあって今回のワールズには当初は出ない予定でしたが、一年生ホープの田村君からの誘いもあって、彼と参加するに至りました。ディベートにどっぷり浸かっていたそれまでの大学生活(主に日吉時代)とは対照的に、ゼミや就活を通して新しい人間関係ができ、かつ新しい分野に興味が広がっていた大学四年時は競技としてのディベートの優先度、特に「大会で結果を残す」ことへの関心は自分の中では低くなっていましたが、田村君の一年生とは思えぬ圧倒的実力、ポテンシャル、そして何よりその漲る熱意に感化され、「最低でもEFL優勝[1]、またはESLブレイク[2]」という目標を設定して準備に取り組みました。

しかし、大会本番では予選オープン7点[3]と調子が悪く、下手したらEFLブレイクも危ないのではないかという懸念のもと、サイレントでなんとか踏ん張ってEFLブレイク。最終的な結果としては、チームで”EFL Semifinalist”、個人で”EFL 9th best speaker”で現役最後の大会を終えることになりました。

結果そのものはチーム個人ともに「悪くはない」ものでした。自分のスピーカースコアも計693点で、歴代の日本人参加者の最高点が694点であるらしいことに鑑みれば、よく頑張ったなとも思えます。では、この結果に「満足しているか」というと、正直一切満足できていません。パートナーの田村君も同じ感想でしょう。チームの目標は「最低でも」EFL優勝であったわけですし、昨年度の世界大会で辛酸をなめた経験から、”WUDC”という大会に対して強い思い入れがあったから。

昨年度干場と組んで参加した世界大会(WUDC2016/ Thessaloniki Worlds)では、オープン10点と調子が良く、このままいけばEFLブレイクはもちろん、ESLブレイクもかなり固いと思っていました。特に、オープンではアメリカ、イギリス、カナダ等のEPL[4]の超名門校を倒す、自分たちの試合でジャッジに入っていたAC[5]を含むEPLジャッジに「感動した」と褒められるなど感触も良く、勢いに乗ってサイレント三試合に望みました。

サイレントの試合も感触は悪くない、少なくとも三試合のうち一試合は絶対に一位を取ったはず、期待を膨らませて望んだブレイクアナウンスメント。しかし、結果はESLブレイクどころかEFLブレイクも無しの「全ブレイク落ち」。

大学四年間のディベート生活で、大会の結果についてめちゃくちゃ感情的になる、ということはあまりありませんでしたが、あの時は号泣し、また憤慨して壁を殴り続けた記憶があります。そういう経験があったからこそ、今回のワールズでは「最低でもEFL優勝、ESLブレイク」を掲げていたので、今回の結果には心から満足することはできませんでした。

 

まあでも大会自体はとても楽しかった。これは事実。田村君という、全く今まで組んだこともないようなタイプのディベーターと組み、良い刺激を受けました。自分では思いつかないような新しい分析を出す田村君からは学ぶことも多かったです。最後の大会をしっかり楽しめたわけですし、自分のスピーカースコアも予想以上に高く、改めて自信をつけることができましたし。これはこれで結果として受け入れて、田村君やKDSの後輩達が、来年度以降の世界大会で僕の代わりにリベンジしてくれたらな、と思います。

 

同期のトムとかすみとともに、ワールズ決勝会場にて。

同期のトムとかすみとともに、ワールズ決勝会場にて。

 

  • 世界大会においてEFLであること、日本人であること

二年連続世界大会に参加して思ったことは、「他の国際大会以上に、非EPLや非白人への偏見や差別がひどい」ということです。

僕は、たとえば「自分はEFLだからESLやEPLには絶対に勝てない」という言葉がとても嫌いです。ディベートが、ジャッジという第三者への説得力の強さを競う競技である以上、立論や反論のロジック力のみならず、表現力やプレゼンの能力も必要不可欠であり、ゆえに自分の英語力を鍛える努力を怠るべきではない。EFLである僕自身も、そういう言い訳をしたくなかったので、英語力をあげる努力をこの四年間ずっと続けてきたつもりです。

一方で、逆説的ではありますが、現実問題としてどうしても超えられない限界もあります。これはEFLのみならずESLにも通ずるものでしょう。英語圏に生まれ、以後約二十年以上、英語で育てられ、英語で教育を受け、英語で思考し、英語で日常会話をしてきた人々と全く同じだけの英語力を後発的に獲得するのはほぼ不可能です。自分自身、四年間数多の国際大会に参加してきて、単語の発音一つとってもやはり大きな壁があると感じてきました。

その限界が、時には理不尽な偏見と差別に繋がることもあります。全世界の数多の人種が揃う世界大会では特にこれが顕著です。例えば僕は、ある試合ではジャッジに「君のそのなまった発音で、英国紳士のようなエレガントな立ち振る舞いのスピーチをすべきではない」とフィードバックされたり、あるいは、別の試合では「君のこの単語の発音が気に入らなかったから君を負けにした」と言われたこともあります。

もっとも、言語的なステータスに対してのみならず、日本人、アジア人、非白人一般への差別もまだまだ見受けられます。今年度の世界大会では「アジア人はディベートのやり方をわかっていない」という暴言さえ見られたそうです。

それではもう泣き寝入りするしかないのか、というとそうでもないと思う。なぜなら、EFLであり日本人である自分のスピーチをしっかり聞き、評価してくれるEPLのディベーターやジャッジも沢山いたからです。先述のThessaloniki Worldsの試合では、ジャッジが皆EPLで白人でしたが、試合後には興奮した様子で駆け寄ってきて「君たちのスピーチは本当にすごかった。感動した。」とフィードバックしてくれ、彼らにEFLである事実を伝えると、「信じられない。申し訳ないがEFLでここまで感動的なスピーチができる人がいるとは思っていなかった」と言ってくれました。あれは本当に嬉しかった。今までの努力が報われた気がしました。同じような経験は、同Thessaloniki Worldsの他の試合でも、今年度のDutch Worldsでも少なからずありました。

世界大会ではまだまだ非EPLや非白人に対する差別や偏見がある、という問題意識を持ちつつも、自分たちのスピーチを公平に聞いてくれる人たちに評価してもらえるように、英語力を高める努力を続ける。彼らの心に刺さるスピーチ、ディベートができるように日々の練習に打ち込む。それを積み重ねていくことで、後世の日本人ディベーターが今後の世界大会でより活躍していってくれたらな、と思います。

本当に頼もしい先輩と美味しそうなパン

ワールズ後の欧州放浪、写真はブリュッセルの朝

  • 四年間を振り返って思うこと

Dutch Worldsの結果に満足していないだの、差別が云々だの全体的にネガティブな話題が続きましたが、それでも「この四年間、ディベートをやってきて本当に良かった」と自負しています。(英語力の限界云々という話をした直後ですが笑、少なくとも)ディベートを始める前に比べて圧倒的に英語力は伸びたし、論理的思考力も鍛えられた。多種多様な議題と触れることで、知識の幅も、関心事の範囲も広がった。議題の肯定•否定両派の立論ができなければならないから、物事を中立的に見る習慣もついた。そして何より、数多の国内大会、国際大会を通して、多様な考え方、バックグラウンドを持った、多様な国籍、人種、宗教、ジェンダーの人々と意見を交わし、交流し、仲を深めることができた。自分の知的好奇心が常に刺激され、人間的に成長できる環境がこの競技には整っていました。ディベートをはじめてなかったら、少なくとも僕は、刹那の快楽に溢れた大学生活に呑まれて腐ってたと思います。

 

競技としてのディベートに日々打ち込み、選手として大会に継続的に参加する期間を終えたという意味では、僕はもう現役引退です。しかし、「様々な議題や論点に関心を持ち、思考し、知識を蓄え、人々と議論し意見を交わす」ことがディベートの本質であるならば、僕は一生涯、現役ディベーターでありたいです。


 

[1]英語を外国語として学習した(English as Foreign Language)参加チームの枠で予選を通過し、優勝すること

[2] 英語を第二言語として学習した(English as Secondary Language)参加チームの枠で予選を通過すること。EFLチームであっても、予選の結果次第でESLまたはEPL(註4参照)の枠で本選に参加することが可能。

[3] 世界大会では予選九試合と、その結果の下本選トーナメントが開催される。予選九試合の内、六試合の結果は試合ごとにジャッジにより公開され、これをオープン、残り三試合の結果はブレイクアナウンスメント(予選突破チームの発表会)までは非公開で、これをクローズ/サイレントと呼ぶ。オープン7点とは、オープン六試合での結果チームが獲得した持ち点が全体で7点だったということ。

[4] 英語を母国語とする(English as Primary Language)チームや参加者のこと

[5] Adjudication Core. 大会で出題される議題やジャッジ基準などを作っている人たちのこと。


KDSの顔、詩文さんと竹林

KDSの顔、詩文さんと竹林@京都

四年間という長い間、KDSと日本ディベート界全体を引っ張ってくださって本当にありがとうございました。ディベートを何のためにするのか、そしてディベートを通した何を学ぶのか、とても深く考えさせられる文章でした。

今年のKDSからはKeio A(Kasumi Nogawa, Tom Ohtsuka)とKeio B(Shimon Nakayama, Hikari Tamura)の2チームがワールズに参加し、どちらも大健闘しました。日本ディベート界の成長が期待されている真っ只中、先輩の背中を追って私達も努力していきます。

最後に結果です!

[WUDC 2017 RESULTS]
EFL Semi Finalist: Keio B (Shimon Nakayama, Hikari Tamura)
EFL 9th Best Speaker: Shimon Nakayama

改めて、おめでとうございました!そして、長旅お疲れ様でした。卒業してからも先輩方は遊びに来てくださいね!