Titech Cup 2017~理性とテクノブレイクの狭間で見えた景色~

みなさんこんばんは!

春休みになってようやく人権を取り戻した広報の田中です。今回は1月に東工大で開催されたTitech Cupのブログを、なんと!!!生きるディベーターレジェンドみつしさんに書いていただきました!!(広報も悩みましたよ…果たしてみつしさんにブログなんぞを頼んでも良いのだろうかと…だがしかし私は読みたいと思った!チャンピオンみつしさんの文章を…!!)

さあ皆様もこのレトリックと分析力の結晶をぜひご一読ください!みつしさんのプレパノートを垣間見る激レアチャンスですよ…??


①私にとってのTitech Cup~過去にした恋愛を振り返って~

②Titech Cup 2017をどう勝ったか~試合の裏側に迫る~

恐らく①は読み飛ばして②だけ読んだらいいのではないのでしょうか。

①私にとってのTitech Cup~過去にした恋愛を振り返って~

Titech Cupは自分に縁のある大会なんです。

実は5年前、1年生の時Titech Cup優勝してて、それが自分のキャリアで初めてオープン大会の優勝でした。嬉しくて放心状態で、トガシさんとかHit-uの人達と焼き肉食べたの覚えてます。ちなみに初めてTitech Cupに出場したのは高校2年生の時なので2009年。もう8年前ですね。当時はJK真っ盛りでした。男だけどライフスタイル的にはどちらかというとDKじゃなくてJKでした。ギャル文化は当時からプログレッシブだったんですね。

そして確か2010年のTitech CupでToshiさんが優勝してその時の決勝が今でも忘れられません。論題がTHW ban tobaccoだったんですけどToshiさんのスピーチがとにかくカッコよくて、日本のディベート界に新しい風が吹き始めたのを感じました。

事実2010年を皮切りに日本のパーラメンタリーディベートは大きく転換したように思います。「脱アカデミックディベート」としてのパーラメンタリーディベートがこの頃から普及し始めました。日本ガラパゴス型の古い時代のディベートスタイル(証拠が使えない劣化版アカデミックディベートとしてのパーラ)は消え失せ始め、OBOGが力を失い海外ディベーター達に刺激を受けて磨かれた現役世代が活躍し始める時代。そんな新し時代の幕開けがToshiさんのPMスピーチだった。自分が大学に入学してディベートを始める頃には、新しい時代が待ってる、そんな期待を抱かせてくれた大会が自分にとってのTitech Cup。ワンピースで言うと新世界みたいな。

それとは別に、かねてから自分の憧れで、追いかけ続けている内山さん、富永さんとドリームチームつくりたいというウイイレ的なノリがありました。

恋愛の話全く関係無かったですね。山田優が好きです。

unnamed-1

②Titech Cup 2017をどう勝ったか~試合の裏側に迫る~

全部書くと面倒くさいのでR1と決勝だけちゃんと書きます。

R1: THW ban private ownership of vehicles and cars.

勝ちました。Oppositionでした。

これ昔HKDOで見たなーとかトーマスの家でトーマスがこれのPMやってたなーとか思い出した。この大人になると大体の論題なんとなく見たことあるようになる。

自分のwhipとしてのプレパは

①まず論題を因数分解して、

②「問い」をリストアップして(ここが勝負!)

③What is this debate about? を考えて争点と証明責任を整理(ここはあまり時間をかけず心に留めとく程度に。試合中に見えてくることもあるので。)

①因数分解(10~20秒でささっと)

THW・・政策論題、政府主体、モデルしっかり作ろうかなぁ

ban・・regulationよりburden重め。一般化して全面否定?オポは部分肯定のも可?

private ownership・・私有廃止って共産主義かっ。オポとしてはここをつきまくろうか

vehicles&cars・・車という商品の特性の分析は力の見せ所かいな。ポスト構造主義者のボードリヤールの「消費社会の神話と構造」ブックオフで買って読んだけど途中で挫折したなぁ。まぁでも「記号的消費論」の分析使ってみよう

これらは全て頭の中で行われています。

②「問い」をリストアップして、争点と証明責任を整理(3~5分で)

◆因数分解から直接的に導き出される問い

・どういう状況(国、地域、コンテクスト)を想定しているのか?

・私有の性質、特徴とは何か?共有とどう違うのか?

・車の性質は?どういう時に使う?

・誰が車を所有している?どういう目的で?

・車が廃止されたら人々はどう移動する?公共交通機関?

・プラン後に公共交通機関はどう発達する?

・渋滞や環境汚染に対しての政策として妥当な代替案は?

・前例はあるか?

◆1歩引いたマクロ視点からの観念的な問い(プレパの後半で思いつけばOK。最悪試合中でもOK。)

・外部不経済の原因を個人の責任に転嫁可能か?

・特定の個人が外部不経済を起こしたとして全員の所有権を剥奪することが妥当か?

・社会的功利性(渋滞解消、環境保全、利便性、経済性)に優先順位を付けられるか?

これらの視点がでたらコンストする前2人にスピーカーに渡す。

すでに大まかなポイントできてるだろうから、テキトーに話し合いつつスタンス調整。

オポをやる時のスタンス=以下の3つをチーム内で共有する

◆メインの主張・議論

◆線引き:ここまではいいけど、ここからはダメ

◆問題に対する認識(方法論的立ち位置):カウンターモデル

これを1枚の紙に大きく書くのがwhipの仕事。Case sheetとか呼んでます。建築に例えるなら設計図、船旅であれば航海図、アニメでいう絵コンテみたいなものです。

メインの主張はなんだったか忘れました。1st Speakerが良い感じにやってました。

線引きとカウンターモデルの説明は同時に行いました。臨機応変に。

方法論的立ち位置は、全面的な所有権剥奪はやり過ぎだから、部分規制で。

ピグー税(環境税、なんんとか税、高速料金を渋滞に応じて上げるとか)、時間帯による交通規制

③What is this debate about?

ここはあまり時間をかけず心に留めとく程度に。試合中に見えてくることもある。BPだったら大事なんだけれども。

上記のリストアップした争点を見つめてメインの枠組みを決めます。

マクロ視点の問いがそのまま、メインの枠組みになることが多いです。でもこの作業プレパ時間にやると時間無くなってしまうので試合中でもいいと思います。

この時は試合中にメインの争点決めました。

「いかなる外部不経済、社会的損害に対して、自動車を私的所有している個人にその責任があるのか?」

がなんとなく強い視点になりそうと、DPMが終わった時点で思いました。これ1つ目のクラッシュにしてここほじくり返したら勝てるんじゃね?って思いました。

※もちろん試合の後半でここを伸ばせるようにLOから分析はだしておきました。一貫性大事なので。

R2: THW force big cities to compensate for rural migration.

Toshiさんに負けました。Govやりました。

大事だと思われる、プレパの頭だけ書いておきます。

・どういうコンテクストか?(具体的な国、地域、都市)

・誰がどんな理由で移住?動機は?

・いつ故郷に帰るのか?

・大都市に集中して起きる問題は?どう発生する?なぜ深刻?

・地方の過疎化がどう発生する?なぜそれが深刻?

・どうcompensateする?お金の使われ方

・forceをどう正当化する?なぜforceなのか?

・代替案が機能しない理由は?

・前例はあるか?

R3: TH, as countries with space exploration projects(i.e. US, China, Russia, etc)should oppose generation ships.

勝ちました。Govをやりました。

大事だと思われる箇所のみ記述しておきます。

◆因数分解から直接的に導き出される問い

・宇宙開発の性質・特徴

・この方法以外の宇宙開発にどのようなものがあるか?

・宇宙開発への影響

・誰が、どういう人が乗組員になるか?

・舟の中ではどのような生活が行われるのか?

・子孫はどうなるのか?第2世代以降の権利はどう考慮されるのか?

・国民の反応は?

・具体的にどのようなリスクがあるか?

◆1歩引いたマクロ視点からの観念的な問い(プレパの後半で思いつけばOK。最悪試合中でもOK。)

・倫理的配慮と科学開発のバランスをどうとるか

・リスクへ同意することが許される時、許されない時

・前例はあるか?アナロジーはあるか?

戦略として、倫理と科学の線引き的な観念的なケースだとどうしてもオポと互角になりそうなので、「今後の宇宙開発にあらゆる側面で悪影響が出て、宇宙開発そのものが困難になる」という具体的な細かい話を細かい分析ゴリゴリ建てて倒しに行こうと試合の途中で気付いたのでWhipスピーチで提示する争点の順番は以下の様にしました。

1 How does “generation ship” undermine space exploration projects in general?

2 How should we reconcile science and ethics?

宇宙開発そのものが滞るっていう話をたてる為にかなり細かい分析たくさん出したけれども、この論題の本質ではないかもしれないような気がするし。これがいわゆる「テクノブレイク」かと思いました。「テクノブレイク」成功。
Grand Final: TH prefers a world where people cannot lie.

勝ちました。Toshiさんとこの日2戦目。Oppやりました。

とりあえず論題見た時、「イマニュエル・カントかっ」て思いましたが、毎週火曜日21時から「嘘の戦争」というドラマ見てるので、水原希子と山本美月の話すれば勝てるかなぁとなんとなく思いました。その話しませんでしたけど。

因数分解のプロセスは省きます。

慣れてきたら因数分解は頭の中でやるのです。「問い」のリストアップから始めます。

・人はどのような時、状況で嘘をつくのか?

・人はどうして嘘をつくのか?

・嘘の性質とは?そもそもどのようなものが嘘とされるのか?

・真実、事実とは何か

・嘘による影響

・いい嘘、悪い嘘の例

ここまで出して気付いたけど、この論題かなり難しい。

whipをずっとやってきたからか、「問い」を掘り起こすのに慣れてて大体10個くらいはおすぐ思いつくのだが、もう限界。これ以上視点でない。

この視点を深めていく感じに。3人集まってモンジュの知恵やって上記に出た視点から議論を深めていきました。

結局以下がメインの主張でした。

「人は意味も無く嘘はつかない。嘘が信頼を傷つけるというこも充分承知でそれでも嘘をつくことがある。すなわち限定的な特定の状況で人は嘘をつくのである。例えば自分を守るために嘘をつく時だ。自分の知られたくない個人的な趣向などを隠す権利がある。つまり嘘は自己防衛の権利なのだ。」

一言でいうとself-defense/self-determinationとしての嘘にケースのフォーカスを当てました。

この主張もカッコよく見えるけど、上記にリストアップした

・人はどのような時、状況で嘘をつくのか?

・人はどうして嘘をつくのか?

という「問い」、切り口を掘り下げていけば、誰でも必ず辿りつく答えですから。

そんなに複雑じゃないですよ。安心して。自分を信じて。「問い」だけリストアップできるようになれば、誰でも決勝でしっかり戦えるから。練習してみてください。

その他スタンスの要素として何言ったかは覚えてないですけどcase sheetはちゃんと書きました。WADの誰かにその紙あげた気がするのでポーネグリフだと思って探してみてください。

実際どう説明したかは音源聞いてみてください。リーダーの富永さんがお手本の様にわかりやすいコンストしています。

そして、ここからは試合中にどういう風に頭を使って試合を組み立てていったかを思い出しながら記します。

肯定側のケースはDPMまでを要約すると以下の様なものでした。

①人間関係は、個人間の同意に基いて形成されるべきである。その同意は事実、真実に基づかなければならない。故に嘘により他人のautonomyを侵害することは許されない。

②嘘が付けない世界では、現状タブーとされている事柄(sexual minorityなど)に関してよりオープンな議論がなされるためそもそも嘘をつく必要がなくなる。

これはとても面白いケースだし分かりやすいし強いと思いました。

Asianだから細かい反論沢山打とうかと思ったけれども、決勝だし派手な方がいいし。それに大きく切らないと切りきれないケースだと判断し以下2つのマクロな反論を組み立てました。(実際は細かい反論を沢山思いついて全部説明しきるだけの体力が今の自分にはないとわかっていたから。)

◆前提を切る。

◆ある程度認めて、比較にもってく

この2つの反論は別にストックしてあるパターンというわけではなく、経験的に、直感的にこれで行こうとなりました。

試合を決めに行く優先度的に◆ある程度認めて、比較にもってくからの◆前提を切る。にしました。

ある程度認めて比較、とは試合では具体的にどう運用されたのでしょうか

「嘘が他人のautonomyを侵害してしまうことが」「嘘の付けない社会はよりオープンになる」という主張は認めざるを得ないなと思いました。ここに反論して削ってもカッコいいけどそんなこと律儀にやってる場合じゃない。思い切って認めて、自分たちの一番強い議論と比較して勝とう!というwhipの力の見せ所。

自分たちのケースの「self-defenseとしての嘘」というフレーミングがここで効いてくる。

「正当防衛は他人を傷つけてもいい」という常識的なラインで比較にもっていけば勝ちが見えてくると思いました。

つまり「他人のautonomyより、自分の尊厳を優先して何が悪いの?他人の為に生きてるわけではないし、個人は自分の利益を最大限追求する権利があります。そもそも全ての個人が行う選択は間接的に他の誰かの利害を侵害するものです。資源が少ないとき、誰かが何かを得たら、他の人は同じ量の利益を享受できない。結論として個人は他人のautonomyより自分の利益を優先するのは正当な判断であり、権利です。」と。

更にもう1つ比較混ぜようかと思いました。

「社会がオープンになる」vs 「self-defenseとしての嘘」

これも上記と構造的には近い比較で決着つけられるなと思いました。

「社会は改善するためにどうして個人が犠牲にならなければいけないのか。個人の同意が重要と説いたのは肯定側であるのに、同意なしに自分の隠したいプライバシーが知れ渡るのはいささか矛盾していないか。社会がオープンになることは、個人から尊厳を守る権利を奪うこととは無関係である。」

では前提を切るとはどういう反論でしょうか。

肯定側のケースの「事実に基いた同意」という部分に着目しました。そもそも肯定側の前提となる「事実・真実」自体が危うい観念であるとダウトをかけられれば肯定側のケース全体が揺らぐと思いました。「真実なんて存在しない!」と反論するのではなくて、「真実とは肯定側の描く程明確で独立した概念でないのですよ」と水かけにするくらいで充分です。

現代思想、特に現象学や実在論は「あるものが存在する」というのがどういうことなのか、真実・事実というものがそもそも存在するのかなどについて思考を巡らせてきましたがそんなことをここで説明する時間は無いので、なんかテキトーな分析したの覚えてます。とにかく「真実はdecisiveでなくてdivisive」というニュアンスを説明できれば充分肯定側の議論の前提を揺らがせたことになりますね。

この様な感じで決勝のスピーチを組み立てました。

なんとなくwhipから見た試合の景色伝わったでしょうか?10年ディベートしてるけど、やっぱり今でも基本に忠実です。あとプレパ用紙は綺麗に使います。字はでっかく書く。

やってることそんなに難しくは無いですよ、基本に忠実に論題に向き合う。それだけです。もちろん知識はあると有利ですけど、自分の得意分野からのアプローチで充分です。全員が現代思想専攻すべきだとは思いません。

ということでTitech Cup優勝できました。

通算25回目の優勝です。これからも切磋琢磨していきたいと思います。ディベートは生涯学習なので「引退」という概念がそもそも不適切です。私の旅はまだ始まったばかり。

May the force be with you.


圧倒的すぎるので私のコメントは必要ないです。以下が結果となっております、おめでとうございます!

 

TITECH CUP RESULTS
Champion: Love Sexy Techno-Breaker (Mitsushi Ono joint)
3rd Best Speaker and Grand Final Best Speaker: Mitsushi Ono

unnamed